ワインコラム

見たことあるけどよく知らない…ワインの『澱(おり)』の正体とは⁉

ワインボトルの底に沈殿物がたまっていたり、フワフワと何かが浮かんでいるのを見たことはありませんか?これらは澱(おり)と呼ばれるもので、熟成した良質な赤ワインに多くみられる“うま味”のもとなのです。今回は、澱の成分や取り除く方法、意外な活用方法など澱にスポットを当ててご紹介します。

赤ワインの中にフワフワ浮かぶ『澱』の正体って?

澱は主に熟成した上質な赤ワインの中に見られ、渋み成分であるタンニンと、色素成分であるアントシアニンといったポリフェノール、たんぱく質などがワインボトルの中で自然に結合し、結晶化したものです。

ワインが若いうちはこれらの渋みや色素の成分は別々に液体中に存在しているのですが、月日が経つにつれて少しずつワインが空気となじみ、渋み成分と色素成分を引き寄せて結晶化します。長期間熟成させた上質なワインの中に澱が見られることが多いのはそのためです。

ちなみに、白ワインにも赤ワインの澱に似た酒石と呼ばれるものがあります。酒石は、ブドウの酸味成分のひとつである酒石酸とカリウムなどのミネラル成分が結合して結晶化したもので、光に反射するとキラキラとガラスの結晶のように見えることから、ヨーロッパでは「ワインのダイヤモンド」という素敵な名前で呼ばれています。澱と酒石は区別されることが多いですが、総称して「澱」と表現されることもあります。

澱があるワインは美味しいってホント⁉ワインの熟成と澱の秘密

澱は主に熟成した上質な赤ワインの中に見られると言いましたが、その理由についてもう少し詳しくご紹介します。

澱の正体は、先ほどお話ししたように渋み成分のタンニンと色素成分のポリフェノールなどが月日を経て少しずつ結晶化したものです。タンニンの多いカベルネソーヴィニヨンなどの黒ブドウを多く使ったワインは、ポリフェノールの抗酸化作用により、一般的に長期熟成に適しているといわれています。

ヴィンテージワインにタンニンが豊富なブドウ品種を使ったワインが多いのはこのためで、長期熟成タイプの代表格、フランス ボルドー地方の赤ワインも主にこれに該当します。

では、ワインの熟成が進み、澱が生まれると、味わいにはどのような変化が起こるのでしょうか?渋み成分と色素成分が結合して結晶化するということは、その分だけ渋み成分が抜けるので、まろやかでコクのある味わいになります。

また、色素成分も結合するため色合いにも変化が出ます。熟成が進んだワインを光にかざすと、フチが綺麗なオレンジ色になるのもこのためです。時間をかけてゆっくりと変化した味わいと色を楽しめるなんて、とても贅沢ですね。

ただし、中には保存状態の悪さからワインが酸化して澱が発生しているケースもあります。適切に保管されたワインは、きちんと澱下げをしてからワインセラーに寝かされているので、ボトルの片面にしか澱が付着していません。ヴィンテージワインを選ぶ際は、ぜひ参考にしてみてください。

澱が多いワインはどんなワイン?ワインの種類と澱の関係

澱は上質な赤ワインに見られるといっても澱の多いワインとそうでないワインがあります。では、どのようなワインに澱が多く生じるのでしょうか。

・タンニンの多い赤ワイン
澱の正体であるタンニンが多く含まれているワインは澱ができやすいとされています。赤ワインの中でもフルボディのワインにタンニンは多く含まれており、澱が発生している可能性も高いと考えられます。

・熟成期間の長いワイン
ワインの熟成が進むことで澱が生まれるため、熟成の進んだ古いワインには澱が多く含まれてます。ワインによって異なりますが、10年以上熟成させたワインには確実に澱があると考えておくとよいでしょう。

・自然派ワイン
自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)は、ブドウの栽培方法から製造過程において極力人の手を加えずつくられるワインのことを言います。自然の酵母を使用し発酵させるため無濾過・透明度を上げる薬品を使わない無清澄の製法が用いられ、ブドウ本来の味わいが楽しめます。そのため澱の要素となるポリフェノールやたんぱく質、酵母などが結合した混合物が多く含まれ、熟成が浅いものでも澱が生じている場合があります。

澱を取り除いてワインを美味しくいただくには準備が必要なケースもあります。どんなワインに澱が多いかを覚えておけば、グラスに注いだ時に「思いがけず澱が沢山入ってしまって…」というケースも防げ、より美味しくワインをいただけますよ。
「澱」の基本知識はワイン選びにも、保存にも役立つので、ぜひ覚えておいてくださいね。

澱のあるワインを美味しく飲むための手順をご紹介!

澱が発生したワインを乱暴に扱ってしまうとボトルの中で澱が舞ってしまい、グラスに注いだ時に見栄えが悪くなってしまいます。
また、澱は上質な赤ワインに多く発生しますが、熟成したワインと渋みの塊である澱を一緒に口に含んでしまうと、ワイン本来の味わいを楽しむことができなくなってしまいます。

この章では、澱のあるワインを美味しく飲むための手順をご紹介します。正しい取扱い方法をマスターして、美味しいワインを楽しんでくださいね。

●澱が発生したワインの取り扱い方法

1.飲む一週間前にワインボトルを立てておき、澱を瓶の底に沈める。
澱の量等によって時間がかかる場合もありますので、目で見て状態を確認してくださいね。

2.飲む直前にもう一度ラベルを上にし、静かに横に寝かせる。
こうすることでラベルとほぼ対角線上に澱が堆積し、グラスに直接注ぐときボトルの肩に澱を溜め、グラスに入らないように注ぐことができます。
この際「静かに寝かせる」のがポイントです。急いで澱が舞い上がってしまったら①からやり直さなければならないので、ゆっくり、優しく扱いましょう。

3.澱がグラスに入らないようにゆっくりと注ぐ
勢いよくグラスに注ぐと澱が入ってしまいますので、「ゆっくり、静かに」を心がけましょう。
また、ワインの澱はボトルの底に溜まっています。澱をグラスに入れないために「注ぎ切らない」ことを覚えておきましょう。

熟成した上質な赤ワインに澱はつきものですが、澱が発生したワインでも正しい取り扱い方法を知っていれば何の不安もありません。
こうして手間暇かけるのもワインの楽しみの一つです。今回ご紹介した方法は道具もいらず誰でも気軽にできますので、ぜひ覚えておいてくださいね。

ポイントを押さえれば簡単!ワインの澱を取り除く方法

澱はワインのうま味成分が沈殿したものなので口にしても問題はありませんが、舌に触れるとザラっとした感触があり、酸味や苦味を感じるので、せっかくのワインの風味が損なわれてしまいます。
一番おすすめなのは『デキャンタ』にワインを移し替える方法です。

●澱を取り除くためのデキャンタージュの方法

1.飲む数日前からワインボトルを立てておき、澱を瓶の底に沈める。
ワインによっては時間がかかる場合もありますので、目で見て状態を確認してくださいね。

2.できるだけワインボトルを動かさないように栓を抜く。
ボトルを動かすと澱が舞うので、できるだけ静かにコルクを抜いてください。

3.澱が舞い上がらないよう、静かにボトルを傾けてデキャンタに移す。
澱が入らないように注意をしながらデキャンタにワインを移し替えてください。澱が見えにくい場合はワインにライトを当てながら行うといいですよ。

デキャンタを使うと綺麗に澱を取り除けるのでとても便利ですが、ワインによっては直接グラスにそそいだ方が良い場合があります。
デキャンタージュは澱を取り除く以外にも、ワインを空気に触れさせるという効果もあるため、すでにボトルの中でしっかりと熟成しているワインは、デキャンタージュをすることで急激に酸化が進み、味が損なわれてしまう場合もあります。

一度デキャンタージュすると元には戻せないので、開栓後に少しだけ飲んで味わいを確かめてからにしてくださいね。

実は、ワインボトルにも澱が舞い上がらないための工夫がしてあります。赤ワインのボトルの底によく見かける大きなへこみは、ワインをそそぐ際に対流が発生して澱が舞い上がるのを防ぐため。デキャンタージュできないワインや、デキャンタがお手元にない場合は、静かにゆっくりとワインをグラスにそそいでくださいね。

ワインボトルに残った澱は捨てられることも多いですが、フランスでは煮込み料理やドレッシングに利用することもあるのだとか。

ちなみに、ワインボトルの底のへこみを英語で「Punts(プンツ)」といい、この部分を切り取ってグラスに加工したWine Punts(ワインプンツ)というものがあります。澱を舞い上げないための工夫が、デザインとして楽しまれていると思うと面白いですね。

ワインを美味しくしているにも関わらず、ワイン好きにとってはやっかいな存在の澱。ワイン工場でも廃棄されていましたが、澱にはポリフェノールなどの美容成分が豊富に含まれていることから、最近は化粧品に利用されるケースもあるとか。
もしかしたら近い将来、澱は“捨てる物”から“再利用する物”としてワイン以外の場所でも目にすることが多くなるかもしれませんね。