栽培家が手塩にかけて育てる、島根ワインのブドウ
栽培〜Viticulture〜
「島根の地で最高のブドウを作りたい」
ブドウ栽培家藤原 和彦
(株式会社島根ワイナリー 製造課)
「ワインの質はブドウで決まる」といわれるほど、ブドウの品質がワインの出来を左右します。その中でもその年の気象状況によってブドウの生育や成熟、病虫害の出方が変化するため、ブドウ栽培はとても気を使う仕事であり、責任を感じています。
横田ヴィンヤードが開園するまでは平地での栽培を行っていました。当時は栽培に苦戦しており、特に欧州系ブドウに関しては、いくら手をかけても思ったようなものが収穫できない時期が続きました。その後、試行錯誤を繰り返し、ようやく平地でも良いブドウが採れるようになりました。しかし結果が出ればでるほど『より質の高いワインが造りたい』との思いが強くなってきました。
そこで、ブドウにとって最適な土地を探し出すため、県内各地の立地や気象条件(土質や気候など)を調べ上げ、現在の奥出雲町を生産拠点とすることを決断し、横田ヴィンヤードを開園することになりました。
横田ヴィンヤードは標高が高く、最近注目されているワイン産地、長野県や山形県と平均気温がほぼ同じ。冷涼な気候で昼夜の寒暖差も10℃以上と大きく、まさにブドウ栽培に最適な土地だったのです。ブドウの健全な生育や果実の成熟に非常に恵まれた土地です。これでようやく条件が揃い、新たな挑戦が始まったと思いました。
「島根でこんなにおいしいワインができるの!」と周囲を驚かせたい
横田ヴィンヤードで最初に栽培したのは、欧州系品種の代表格であるカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネでした。他の多くのワイナリーが欧州系品種でレベルの高いワインを造っている中、あえてこの土俵で勝負する。競合がひしめく中、「島根県でこんなおいしいワインができるのか」と周りを驚かせるのにはインパクトがあります。そのために最高の品質に作り上げようと決意を新たにしました。
横田ヴィンヤードでは、萌芽期の遅霜対策から新梢誘引や摘房などの作業、収穫、冬の2m近い積雪に備えた準備など、1年を通して自然と一体となって作業を行います。
島根の地から最高のワインを生み出すため、最高のブドウを作り出す努力は惜しみません。
ブドウから島根ワインができるまで
醸造〜Wine Brewing〜
「ブドウが持つポテンシャルをすべて引き出すのが醸造家の仕事。」
ワイン醸造家堀江 博巳
株式会社島根ワイナリー 製造課
栽培環境の良好な地で生育されたブドウには、個性や良さがあります。高品質なワインとは、そのブドウの持つ強みを引き出すワイン。だからこそ、ブドウが持つポテンシャル以下のワインを造ってしまったら、醸造家として失格だと思っています。
そのためには、しっかりとした醸造技術を持っていないといけません。
使用する酵母や樽による香りや味わいの変化の感取、熟成期間の見極め、ブレンドによる最終的な味わいの決定など、醸造家に求められる技術は多岐に渡ります。まだまだ学ぶことの連続ですが、島根のブドウが一番輝くために試行錯誤を繰り返しています。
使用する酵母、樽の選定に苦労
ワインの個性には、原料のブドウの特徴や、使用する酵母の種類も影響してきます。造るワインの方向性を決めて、数多ある酵母の中から条件に合う酵母を選択するのですが、それは試行錯誤の連続でした。特に香りが弱いのが弱点だったために、香りの成分を生み出す力がより強い酵母を用いたりしていたのですが、それでは思うように香りが出なかったり、逆に味わいが薄っぺらくなってしまったり…
樽の選定についても同様で、使用する樽によってワインに与える影響が変化します。バニラ香やスパイス香、香りの強弱を新樽比率で調整したり。熟成のタイミングはテイスティングにより判断します。
また、ブレンドの決定も難しいところです。単一品種でいくのか、異なる品種をブレンドするのか。同一品種でも栽培地や造り手、醸造手法が違えばガラッとワインの印象が変わるので、同一品種同士をブレンドするという手法もあります。
こういった様々な要素をいかに組み合わせて、最初に決めたワインの方向性に近づけるか、が腕の見せどころとなるわけです。経験を積み重ねつつ、学ぶことで、自身の醸造技術を日々磨いています。
横田ヴィンヤードのブドウの力は、まだまだこんなもんじゃない
プレミアムワイン、特に横田ヴィンヤードで収穫するブドウを仕込む際は、かなりプレッシャーを感じます。ブドウ収穫のタイミングを決定するところから発酵管理、熟成期間と、常に気を張り詰めて作業に取り組んでいます。
近年では横田ワインが日本ワインコンクールで賞を受賞するなど、品質の向上が評価されていますが、私は「横田ヴィンヤードのブドウが持つ力は、まだまだこんなもんじゃない」と思っています。甲州もコンクールで賞を受賞し、島根のブドウが持つポテンシャルは他に引けを取らないと確信しています。
それを引き出すのが醸造家である自分の役目であり、今後もより良いワイン造りへの研究を欠かさず行っていきたいと思っています。
繰り返しになりますが、ワインひとつを造りあげるには、収穫したブドウ果汁の成分、発酵温度、発酵期間、醸造手法、熟成容器、熟成期間など様々な要素の最適な組み合わせを考えて、いかに理想的な仕上がりに近づけるかが鍵になります。そのためには、日々のデータの蓄積、特にテイスティングによる味、香りの変化といった感覚的なデータと、化学的に数値化したデータの蓄積が重要だと考えています。
特に横田ヴィンヤードに関してはまだ年数も浅いので、ワインの質も今後十分に伸びる余地があるということだと思います。